◆桜 [さくら]

 ―[名]

1.バラ科サクラ属の落葉高木または低木。北半球の温帯と暖帯に分布し二〇〜三〇種がある。日本に最も種類が多く、奈良時代から栽植され、園芸品種も多い。春、葉に先立ちまたは同時に開花。花は淡紅色ないし白色の五弁花で、八重咲きのものもある。西洋実桜(みざくら)の実はサクランボといい、食用。材は器具・版木・薪炭用。重弁の花を塩漬けにして桜湯として飲み、葉は桜餅に使用。染井吉野が代表的であるが、山桜・江戸彼岸・大島桜・八重桜も各地に植えられている。日本の国花。[季]春。

 

04.いっぱいの桜

むくひばで純愛な11のお題

お化粧を直して戻ってきたら、彼の姿が見えなかった。

「あれ?骸ちゃんは?」

思わず口にすれば、珍しく千種が口を利いた。

「奥の部屋」

「そ、ありがと」

「今は行かない方がいい」

簡単に礼をいって通り過ぎようとしたら、忠告めいたものを受ける。

この男が骸以外に対して二言以上喋るなんて本当に珍しい。

「私に指図しないでよ」

そうは思っても、聞いてやる気はなんて微塵も起こらない。

「後悔しても知らないよ」

それだけぽつりと呟いて、千種はもう何も言わなかった。

「なにそれ。変なこと言わないで」

たまに喋ったら思ったら、訳のわからないことを。M・Mは黙り込んだ男を一瞥して、廃墟の中を歩き出した。

薄暗くって埃っぽくて、瓦礫ばっかり。

全然好みじゃない。こんな所。

骸のためじゃなかったら1秒だっていたくない。

灰色で、せっかく抜け出した刑務所みたいな所をずっと歩いていく。

幾つもドアの外れた部屋を通り越して、ようやく明かりのもれている部屋を見つけた。

足を弾ませて踏み込んで、M・Mは骸を呼ぼうと開いた唇を凍りつかせた。

真っ先に目に飛び込んできたのは、爛漫の桜。

目に痛いほどの真っ白なライトに照らされて、眩暈を覚えるほどに視界を埋め尽くす。

ちらちら ちらちら

降りしきる薄紅の花びらの下、横たわる人形に、骸が口接けていた。

一瞬、人形に見えたそれは、人だったけれど。

見間違えるほどに、蝋のように白い肌。整った美貌は、本当に丹精込めて作られた人形みたい。

彼は、愛惜しげに、血に塗れた美しいヒトガタに何度も顔を寄せる。

唇に、感情。

なんの意味もなく、戯れに繰り返されるのでは無く、そこに、なにかを込めて、伝える為に。

まるで、恋しい人にするように。

想いの、発露。

そんなのは、知らない。

キスを強請れば、簡単にくれた。

でも、いつだって、冷たくて。

そんな風に、大切に、意味を込めてなんてくれなかった。

立ち尽くして、ただ見ているしか出来ない。

今、其処にある光景が信じられない。

どれくらい、時間がたったのか。

気がすんだのか、骸が口接けるのをやめて、ようやく声を掛けてくれた。

「M・Mですか?」

振り向いても、くれなかったけれど。

変わらずその顔は眠る恋人に向けられて、その指は優しく髪に触れる。

「それ、なに?」

いやに擦れた声だ。どうしていつもみたいな声じゃないんだろう。

「これですか?クフフ、キレイでしょう」

そっとそっと人形の頭を持ち上げて、頬を寄せて自慢するように見せてくれる。

でも、骸にとってなんなのかという、明確な答えを、返してはくれなかった。

それ、は。酷い暴力に晒されたのだろう。

そうやってよく見ると、頬は腫れて、唇や鼻から血を流している。ボタンが幾つも無くなっているシャツから見える肌は、醜い青紫の斑が浮かび上がっていた。そこに時々色の違う、赤い鬱血の痕も混じっている。細い首には、噛み痕すら残っている。

ぼろぼろで、うち捨てられたゴミのようなありさま。

それでも、一瞬で、キレイだと思わせる人間だった。

ひどく酷く、キレイだった。

真っ白な肌に、黒い髪と、黒い睫。

きっと、瞳も黒いんだろう。

そこに、艶麗な、赤。

 

ああ、なんてキレイな人形だろう。

 

きっと、彼の心を捉えて離さない。

頭上に絢爛と咲き誇る桜のように、妖しく、儚い。

散り際までも、散り際こそが、なによりも凄艶で美しい、心を魅了してやまない華。

桜の下には、狂女が踊る。

その狂気につかまって、人は物狂いになるという。

きっと、彼もそうなった。

もう、戻ってこない。

「私、お邪魔みたいだから戻るね。また、暇な時にでも遊んでよ、骸ちゃん」

 震えるのを噛み締めて、必死に声を出す。

「ええ、また今度」

骸はそう答えたけれど。

でも、もう二度と遊んでくれないだろう。

泣きそうになるのを堪えて、来た道をかけるように戻りながら、そう思った。

きっと、今までの骸だったら、様子の可笑しな自分に気付いて、声をかけた。

でも、今の骸は、それにさえ気付かず、ただただ意識をあの人間に向けている。

 

千種の言ったとおり、行かなければよかった。

見なければよかった。

 

あの花に狂った骸を―――

 

 

 

 

 

 

text-s

桜の下には死体が埋まっている。

有名な言葉です。

言いえて妙。

桜とよく絡められるヒバリさんですが、そんなヒバリさんをぼろっくそにしてくださったのは骸。

骸、死骸、死体のことですよね。

そこからして、なんか、もう、すっごいお似合いな二人ですよね!!

運命だから!!

そしてM・Mが偽者だ。

いいの、ムクヒバサイトだから(良くないだろオイ)