01.恋の足音

byむくひばで純愛な11のお題

今日は最低の日だ。

靴紐が切れてしまっていったん家に戻って履き替えなきゃならなかったし、朝から群れるバカを見るし(勿論その場で噛み殺した)、今日当たる課題をやってくるのを忘れてしまった(小さく呟かれる厭味が辟易する教師だ)。

しかも低気圧が近いのか頭痛までする。

ここまで揃うと完全にやる気を削がれて、雲雀は応接室で不貞寝を決め込んだ。

いつもとなにが違うのかと言われそうだが、ようは気分の問題で、雲雀にとっては重要な事だ。

今日のエスケープは好きでやってるんじゃないんだから。

メーカーを指定して入れさせた、自宅にもあるお気に入りのソファーに寝転んで、肘掛付近に置かれていたクッションを抱き込んで目を閉じる。

ふわふわの黒皮のソファーは、沈み込んできた主の身体をやんわりと抱きとめた。

その寝心地の良さに、ささくれ立った雲雀の気分も幾分和らぐが、断続的に襲ってくる頭痛は増すばかりで一向に収まろうとしない。

ぎゅーとクッションを抱く腕を強くした所で響くノックの音。

「だれ」

授業も始まっているこんな時間に訪ねてくるなど、風紀委員の者しかいない。どうせ草壁辺りだろうと苛立たしげに誰何すれば、入ってきたのは雲雀にとって世界で一番最悪な男。

「こんにちは、ヒバリ君」

ニッコリと笑うその顔の、なんて憎たらしい事!!

「うざいうるさいムカツク死んで」

咄嗟に抱き締めていたクッションを思いっきり投げ着けて罵るが、あっけなく避けられて、綿の塊はぼふりと間抜けな音を立ててドアにぶつかって落ちた。

「よけないでよ!」

子供のように癇癪を起こして目の前の優しげな顔を怒鳴りつけた雲雀は、もう骸を見ていたくなくてぷいと顔を背けると、クッションを投げるのに起こした身体をもう一度ソファーに沈みこませる。

「まだなにも言ってませんし、していないんですけどね。挨拶をしただけで」

幼げな雲雀に、骸はクフフと彼独特のいつもの笑いを零した。その笑いが嫌いだと知っていてするのだから、嫌な奴だと雲雀はいつも思う。

クッションを拾い上げた男が側まで来たので、雲雀は寝返りをうって背を向けた。

「どうぞ?これもお気に入りなんでしょう」

その態度を気にするでもなく頭の上にクッションを差し出され、雲雀は骸の手からクッションを引っ手繰って枕にすると、またソファーの方を向いて男に背を見せた。

それにも微笑んで、男は寝そべる雲雀の腰辺りのソファーの淵に落ち着く。

「ちょっと」

骸の重みに、ソファーが沈んで重点が微妙に変わって気持ちが悪い。

おまけに背に骸の身体があたって温かな人の体温が伝わってきて、雲雀は思わず嫌悪に顔を顰めた。骸だからというわけでもなく、基本的に人に触られるのが嫌いなのだ。

振り返って、男の身体を押しのけようと腕を伸ばすが、逆に掴まれて縫い止められる。

「まぁいいじゃないですか」

咽喉を鳴らして顔を覗き込んでくる、骸のその腕に込められた強さに、これ以上反抗しても無駄だろうと、雲雀が諦めて力を抜いて瞳を閉じれば骸の腕も引いていった。

けれどそのまま退かされるかに思えたその手は、雲雀の髪を何度も梳いて戯れに指に絡めてはを繰り返す。

骸がどんな顔をしているかなんて見なくてもわかる。

きっと機嫌を損ねて、拗ねて不貞腐れたペットでも見るような顔をしているのだ。

圧倒的な優位から来る寛容。

むかつき過ぎて言葉も出ない。

だが今の雲雀にはそれを覆す力は無くて、ただ上位者から向けられるものに甘んじるしかない。

悔しくて悔しくてたまらない。

いつか絶対に思い知らせてやる。

だから頭を撫でる動きに変わった、さらりと乾いて冷たい手が気持ちいいなんて認めてやらない。

反応なんて返してやらない。

僕は君に飼われて、甘やかされて機嫌をとられるペットなんかじゃないんだから。

いつか君のその咽喉笛に噛み付くんだから。

「頭痛は治りましたか?」

ぎゅっと身体を縮こませてその優しくて冷たい手に耐えていれば、ふと穏やかな声がかけられた。

「なにそれ」

「ヒバリ君、偏頭痛持ちでしょう?今日はつらいんじゃないかと思いまして」

お見舞いですと静かに笑う声が憎たらしい。

なんだってそんな事まで知っているのか。

一瞬、治まっていたような頭痛がぶり返して、雲雀はその手を払おうと頭を振る。

その様や、眉間に力を込めて顰めている顔が可愛らしくて、骸がますます機嫌をよくするなんて雲雀は思いもしないだろう。

クフフとまた笑って、あまりの愛らしさに、骸はむっつりと引き結ばれたベビーピンクの唇を優しくついばんだ。

柔らかく触れて離れていった感触に驚いて、雲雀はぱっと目を開けつろ多分自分に触れただろう男の唇を凝視する。

それこそ、仰天した時の猫のような仕草に骸は笑い転げてしまいそうだ。

「フフ。どうしました?」

衝動を堪えて向けられた視線は、それこそ甘く、あまく。

蕩けんばかりの顔を見て、雲雀はきゅうぅっと目を細めて吐き捨てた。

 

「さいてい」

 

窓から吹きこむ風は雨の匂いを含んで重い。

ああ、明日もこの頭痛に悩まされそうだ。

 

 

 

 

text-s

頭が砂糖漬けなんでしょうか…

純愛ムクヒバだからってやりすぎじゃないかしらこれ。

そして認めてやらないとどっちにしようかと迷った…そのうち中身が入れ替わったりするかも(笑)

この骸にとっては雲雀はかわいいかわいいペットなんでしょうね、きっと。

ねこっかわいがりするバカ飼主。

まだスキンシップに慣れていないヒバリですが、うっとおしくてにゃーにゃー毛を逆立てたりするのは最初だけで、その内ノーリアクションになりますよ。

それはそれで寂しいなぁと沈む飼主。

…バカ言ってごめんなさい。

ウィルスメールだけは勘弁してください!!(脱兎)