ゴミ箱 |
「恭弥、カウントダウン始まってしまいますよ?起きなくていいんですか?」 ことりと骸の膝に小さな頭を乗せて眠り込んでしまっている子供に柔らかい声をかけて、骸は小さく笑った。 膝にかかる重みはあまりにもささやかで頼りなかったけれど、熱い体温が何よりもその存在を確固として骸に伝えてくる。 ゆるりと骨ばった傷一つ無い指先で雲雀の髪を梳いてやって、目まぐるしく点灯を繰り返すブラウン管に目を向ければ、美しいブロンドのキャスターが背後の群衆と共にカウントを始めた。 「10、9、8、7、」 刻一刻と減っていく画面上に表示されたアラビア数字に、骸も一緒になって雲雀を起こさないようにと配慮して小さな声ではあるがカウントする。 もともと雲雀が望んだのではなく、骸が雲雀と年を越したいからと無茶を言って就寝時間を大幅に超過して今まで起こしていたのだ。10の子供相手に我侭を言う骸に犬達が呆れたように嘆息していた。 それでも、今まで時間の有無に気を払わなかった骸が雲雀と新年を迎えるからと酷く嬉しげに仕度をするのに、彼らもまた相好を崩していた。 いまもキッチンに立って年が明けてからのニューイヤーパーティーの準備に奔走している。 ランチア辺りが、大騒ぎしながら手伝っているのか邪魔しているのか分からない二人を監督しながら柳眉を逆立てているだろう。 「6、5、4、」 数えながら、雲雀と一緒に出来なかったのが残念だと骸は安らかな顔で眠っている雲雀の白くふっくらとした頬を突付いた。だが、機会はこれから幾らでもある。 来年も再来年も5年後も10年後も20年後でさえも、共に居るのだから。 「3、2、」 だから年が明けるまで耐え切れずに眠ってしまったのに、仕方ないと諦めて骸は小さな雲雀を膝に乗せている。 「1」 大音量でファンファーレが鳴り響き、邸外から花火の上がる音すら聞こえてくる。 祭日に浮かれる人々に、今日ばかりは嘲笑も向けず、骸もまた愚かな人間のように心を弾ませて雲雀の小さな赤い唇に口付けた。 「Buon Anno Kyoya。ずっと、一緒に居ましょうね」 時期に3人もカウントダウンに間に合わなかったと息を切らせて大量の料理と酒を持って駆けつけてくるだろう。 乾杯をして、談笑しながら食事をとって、君が目覚めるのを待っていよう。 僕の愛しい子。 |