[48] 渇き

2007/8/26 (Sun.) 00:39:51

 

咽喉が渇く。

渇きが治まらない。

蛇口から垂れ流されるカルキ臭い水道水をコップで汲んで口に運び、いっきに飲み干す。

食道を滑り落ちていく冷たい感触は、僅かな潤いも齎さない。

癒されない渇きに、中身を飲み干したせいで軽くなった器に、もう一度落ちる水を受け止めさせようと伸ばす。

 

「もうやめなよ」

 

何度も繰り返された動作に、制止の声がかかる。

声のしたキッチンの戸口を振り仰げば、漆黒の髪をした人が、同色の瞳を向けていた。

それに、骸は頑是無い子供のように言い募る。

 

「咽喉が渇くんです。いくら飲んでも飲んでも飲んでも、この渇きが治まらないんです」

 

慈愛深い母のように訴えを聞いてゆっくりと近付いてきたその人は、そっとグラスを奪いシンクに置くと、その手でもってやんわりと骸の頬を包んだ。

 

「助けてください」

 

空になった己の手で、その掌を強く握り、頬を押し付けて、懇願する。

 

「無理だよ」

 

そう言って、慰めるように施された雲雀の掠めるような口付けに、骸の渇きはまた増した。

 

君に触れるたび、僕はまた僕の望みを叶える術と意思とを失っていく。

 

 

 

(渇望したのは死ではなく、ただ世界の終焉だったのに、それすらもかなわないなんて!)

[返信]

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おかしいな

ウルグリを書こうと思ったのに、なぜかムクヒバになった。

こんばんは、お久しぶりです。(ぺこり)

なんかもういいわけも虚しい感じになってきたので、あえて何も言いません。はい(罪悪感に押し潰されるよ、ママン)

 

はい、上記の言葉でわかるとおり、ウルグリ萌えがとまりません。

最近ちょこちょこと増えてきて嬉しい限りなんですが、やはし絶対数が足りない上、藍グリがおおくて寂しいです。

いいたく有りませんが、そろそろお亡くなりになりそうですし…潤の旦那、はやくお嬢のところに帰ってきておくんなせぇ

 

そういえば、今後の更新は御題を中心に短文ばかりになるかと。

ただでさえ短いんですが、今はなんかその長さにすら到達できないのです。

でも、なんか書きたくてしょうがない…

短文ように、それぞれのジャンルでお題を見つけて書いていきたい感じです、今(いつも通り、予定は未定…拙者、有限不実行ですから。ふふ)

 

 

 

[52] ハローグッバイ

2007/9/16 (Sun.) 15:04:52

 

人類を滅亡させるものは愛であると骸は考える。

愛を理由に人間は生産性のない生殖を行なうのだ。

同性やら生殖能力の欠如した相手を好きになって、その人以外欲しくないと、まっとうな相手を選ばなくなる。

まったくもって不毛だ。

しかしこんな思考をしている自分が今こうして同性を組み伏せているのが一番の不毛かもしれない。

「でも、仕方ないですよねぇ。愛してるんですから」

何の話だと潤んだ目が怒りに煌めくのが美しい。

その眼球のはまった目元、眦に口付けて、骸はクスクスと笑う。

「人類滅亡について、考えていたんです」

くだらない、と嬌声と一緒に吐き出して、シーツから伸び上がった雲雀が骸の眼を覗き込んだ。

「世界滅亡の次は人類滅亡?まったくもって君は馬鹿だね」

「馬鹿、ですか」

「馬鹿だよ。人も、世界も。そんな簡単には滅んだりしないんだよ」

「何故ですか?」

埋め込んだ肉塊でかれの内壁を撫でてやれば仰け反って眉間に皺を寄せ、途切れ途切れに伝えられた内容はまさしく心裡であった。

なるほどど深く深く頷いて、骸は愛しい人の胎内に精を放った。

こうして熟すのは愛だけだけれど、それで世界も人類も救われもする。

結局、滅ぼすのも存続させるの、愛だと言うことなのかと骸は今日学習した。

 

「だって君は、僕と一緒にいるために生きて帰ってくるじゃない」

 

貴方と過ごす為に、今日も誰かを殺して生きる。

それは僕以外も皆同じで、そうして世界は廻るのならば、人間が死に絶える事は無いだろう。

 

愛する人がいれば、生き残る為の努力は欠かさない。

 

つまりは、そういうこと。

 

 

 

 

[54] 出来るなら君に殺して欲しい

2007/10/12 (Fri.) 22:53:36

 

「貴方に殺されたなら、もしかしたら僕は本当に死ねるのかもしれない」

 

何度も繰り返したこの生に、ピリオドを打つ事が出来るかもしれない。

 

だから今此処で殺してください。

もうこれ以上の苦しみはたくさんです。

 

「ごめんだよ」

 

なのに残酷な貴方は、僕の願いをきっぱりと冷徹なまでに拒否するのだ。

 

「君はいつまでも僕を追ってくるといい」

 

嗚呼。

そう言って貴方は何度でも僕を置いて逝ってします。

 

その度に僕は貴方の言うとおり、貴方を探して探して見つけて愛して愛して愛して愛して、そうして絶望に狂う。

繰り返す生の中、逢うたびに愛しさはまして喜びはましてそして絶望はより一層深くなる。

僕に死を与える事が出来るのは貴方だけなのに。

貴方の許しがないから僕は死ねない。

この肉体が滅んでも、僕の心は狂ったままに生き続け貴方を求める。

僕の恋人。

僕の残酷な支配者。

殺してくれないならあなたもまた生き続けてくれればいいのに。

 

嗚呼!

あなたなんて酷い人なんだろう!!

 

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初代霧の守護者ムックと、雲の守護者バリさま

雲から死に際に「後追いなんてやめてよね」と言われて死ねなくなった霧さん

もう一度会いたいから生き続けて、であった雲にまた死ぬ事を許してもらえなくて延々と追い続ける。そしていつの間にか目玉にまでなりさがる。

なんてね。妄想妄想。

 

 

 

 

[56] 月が綺麗ですね、と僕等は語る。

2007/11/20 (Tue.) 22:42:41

 

「月が綺麗ですね」

 

風邪にざわりと揺れる樹木の枝は夜に熔けて黒い影。

月明かりは物の色をすべて見せるには力不足で、世界は暗く沈んでいる。

それなのに、月そのもだけは晧々と照る。

夜空にぽかりと浮かぶ美しい天体を、骸は褒め称えた。

それに、雲雀がその月を霞ませるほど美しく笑った。

ほんのりと引かれた唇の端に、緩やかに細められた眦。

 

「そうだね。月が、綺麗だ」

 

これは愛の言葉だ。

昔。

雲雀が閨の中、骸に言ったあまりにも美しい。

 

「月が綺麗ですね、というだけで好きと伝えるには充分なんだよ」

 

いつの時代の文豪の言葉だと教えてくれたのか。

あまりにも詩的で麗しいその感性に、眼を見張ったものだ。

 

雲雀恭弥という人に愛を伝えるに、なんと相応しい台詞か。

 

「ええ、本当に。月が綺麗です」

 

もう一度返せば、雲雀もまた返してくれる。

 

嗚呼、美しい。

 

 

 

[60] この男が

2007/11/24 (Sat.) 19:51:23

 

この男が憎いのか愛しいのか分からない。鋭利に浮いた咽喉仏の上に親指の腹を乗せ小さく力を込めて押さえ首に手を回して雲雀は感情の昂ぶりに涙をぽろぽろと零す。

幻に過ぎないのに幻に過ぎないのに君はどうしてこんなに冷えて暖かくて血の流れにどくどくと脈打っているの。ねぇ答えてよ。

ぐっぐっと手に力を込めて気道を圧迫しても変わらぬ作り物じみて美しい顔で笑み、蕩けそうな声音で愛を紡ぐ屍の名を冠した男は最後に「きょうや」と吐息のように雲雀の名を呼んでかすんで消えた。

嗚呼今日もまたこの螺旋迷宮から逃れられなかったと口惜しさと安堵にまたぽろぽろと泣いて泣いて幻の男を想って想って雲雀は「むくろ」とヒトツ男を呼んで息絶えた。

 

夢眠りの水底より浮かび上がるのはなんて耐え難い苦痛なのか!

 

 

ああ、また日が昇る。