嗚呼、よく似ている。

ぬば玉の髪。

濡れたように輝く漆黒の瞳。

皮膚の下を流れる、血管すら透けて見えそうなほど白い肌。

小作りの顔に、整った目鼻立ち。

えも入れぬ色香を漂わせる、あの人に。

 

なんて、よく似ているんだろう。

 

 

籠に込めて愛でる

 

 

「僕の母はね、とても美しい人でした」

 

髪を掴んで引き摺り上げた雲雀に、骸は友人にでもするかのように話しかけた。

「貴方に、とてもよく似たね」

倒れた拍子に散らばる硝子の破片にでも傷つけられたのだろう。

眼の横を走る赤い筋に舌を這わせて、ゆっくりと辿りながら、骸は幼い記憶に思いを馳せる。

骸が覚えている母は、いつも窓の外を見ていた。

黒い髪を背に流し、決してこちらを見ない目が、幻想的に微笑んでいた。

彼女は決して現実を直視する事は無かった。

いつも、解き放たれた空に焦がれ、彼女だけに見える、その向こう側にたゆたっていたから。

新婚旅行中だったのだという。

最愛の男と結ばれて、幸せの絶頂の最中。

彼女は異国の男に見初められ、攫われてきた。

張り巡らせた監視の目。

意味のわからぬ言葉。

馴染めぬ食事や風習。

その街に勢力を持つ、男の愛人の一人として数えられ、閉じ込められた女は現実から逃れるよう空を眺める。

そこに愛した男がいるかのように。

望まぬ子供は、幸いにか皮肉にか、彼女を陵辱した、華やかな金の髪の男には欠片も似なかった。

彼女と同じ、黒い髪と、黒い瞳。

骸という名は、母がつけたのだそうだ。

死体と言う意味だと、彼女の母国の言葉を習い始めて知った。

母の憎悪の呪いの言葉なのか、屍のような、生きた骸のような自身を皮肉ってつけたのやら。

死んだように生きる自身から生まれた子供ならば、その子もまた死体だというのか。

彼女の気持ちなど思いもよらないが、その名に相応しいよう、六道と自分で姓をつけた。

「この右目はね、母にやられたんですよ」

そのとき、なぜ普段夢にたゆたう母が自分を見たのか。

骸を認識した母のそのかぼそい腕で殴りつけられ、視力を失ったのだ。

「ねぇ、ヒバリくん。父が母にしたように、今度は私が貴方を飼ってあげましょう。鳥篭に閉じ込めて。母のように、いくらでも空に焦がれればいい。けれど、決して逃してはあげません」

姿形は母に似たけれど、その性質は父に似た。

だから、父の気持ちも良く分かる。

空を飛ぶ鳥を射ち墜とし、この手に捕らえる事の喜び。

その獲物が美しければ美しいほど、この心は歓喜に沸くのだ。