髪結い骸、

遊女雲雀

 

 

「おや雲雀さん。いらっしゃい」

 

紅筆で口唇をなぞっていく。鮮やかに引かれた朱は毒々しく、まるで血を啜ったように。

ほんのりと開いた中に覗く肉感的な舌のピンクと厚みが物欲しげで見るに耐えなくて鏡面から雲雀は顔をそらした。

「どうしました?」

「・・・別に」

「お気に召しませんでしたか?」

「そんなこと、ないよ」

それでも顔を背けたままの雲雀に、なにを思ったのか骸は細い顎を捉えて上向かせると今己の手で紅を引いたばかりの唇に触れた。

「ん」

侵略してくるわけでもなく直ぐに離れていった男の口唇は、雲雀と同じように赤く歪に染まっていた。

赤色がべったりと付着していた

だが男は自身のそれには頓着せず、雲雀を見て満足気に微笑んだ。

「ああ、この方がいい。さっきのでは、少し濃すぎて雲雀さんには合いませんでしたね」

すみません、と、男は紅に染まった口唇をはんなりと婀娜っぽく半月状に吊り上げた。

 

「きれいですよ」

 

もう一度鏡を覗き込んで、映るそこらの町娘のような薄い色合いの紅色に雲雀はバカみたいとそっと呟いた。