避難警報

 

ぎしりと軋む金網。所々錆びの浮いた、不協和音を立てるそれはまるで二人の関係のようで、雲雀は掴んだ金網を揺らしてみた。

四方を押さえつけている鉄枠と金網がぶつかり合う音が騒々しく、針金の擦れ合う音は僅かにしか聞こえない。

「逃げたいんですか?」

雲雀の揺らす柵に寄りかかっていた骸が、ぽつりと呟いた。

まるで檻に入れられて、そこから解放されようと暴れる獣のようなそれ。

「うん。逃げたい」

頷いて、雲雀は針金を握る手にさらに力を込めた。浮いていた赤錆が手に付着して、ざらざらと気持ちわるかった。

押して引いて、空に反り返ってたわんで、戻る。

がしゃがしゃと耳障りな悲鳴を上げるだけで、壊れたりなんかしない。

無駄な事をしている。

「逃げられませんよ。僕も、君も」

それこそが不幸だといいたげな男に、雲雀は痛みを込めて笑った。

「でも、僕は逃げたいんだよ。骸」

諦めて金網から雲雀が離したその手に、骸は座り込んで横を向いたまま自分の手を伸ばした。互いに顔を背けていたから、見えない手と手を繋ぐのに少し時間がかかった。

何度も空を掴んで、ようやく触れ合った肌を辿るようにして手を握る。

片手だけを繋いで、違う場所を見る。

これがいつものスタンス。それしか、二人をつなぐ物なんてなかった。

いっそこの苦しみで死ねたら楽なのに。

まるで間違ったパズルのピースを無理やりはめ込んだように、僕達はかみ合わなくて、軋みを上げて歪んだ世界を作り上げる。

一緒にいても苦しいだけで、幸せなんて欠片もありはしない。

それでも終わりを考えたくなんてなくて。

 

ねぇ、互いを傷付けるしか出来ないのに、どうして僕らは離れられないんだろう。