獣のようにただじっと蹲って、体力の回復を待っていた。

ぽつり、ぽつりと、その切れた唇が時折り歌を口ずさむ。

何度も何度も同じフレーズを繰り返して、ただひたすら耐え忍ぶ。

この焦がすような激情に。

痛みは、些細な事だった。

もう、顔も、腹も、痛まない。

痛むのは、この心。

傷付けられ、踏みにじられた、この誇り。

成す術もなく、いいように弄ばれた、この躰。

この精神。

一度でもあの男に膝を折ったことが、許せない。

あの男の力に屈し、嘲弄された、脆弱なこの身が呪わしい。

それでも、このままで済ませるつもりは無い。

たとえどんなに無様を晒そうと、最後には必ず自分が勝つ。

何度でも

何度でも

何度でも

どれほどの屈辱に臍を噛もうと

その咽喉笛を咬み切るまで、決して諦めたりはしない。

だから、雲雀は身体を埋めてじっと待つ。

膝を抱えて、顔を伏せて。

ただただ、その時を持つ。

チャンスが訪れるのを。

再び、己が立ち上がるときを。

ああ。

本当に、本当に。

咬み殺してやりたい。

歯が疼くのだ。

ずくずくずくずくずくずくと、痒みにもにて、あの男の肉を食みたいと、雲雀の全身が欲している。

焦がれて焦がれて、じっとしていられなくて、今すぐにでも飛び出していきたい。

いっそ恋にも似たこの感情。

 

待っているといい。

もうじき、僕は、君の息の音を止めにいく。

その青褪めた冷たい唇に、最後の接吻を送ろう。

 

待っていて、僕の恋しい人。

 

暗がりで、獣のようにじっと身を潜め、体力の回復を待っていた。

ぽつり、ぽつりと、その切れた唇で歌を口ずさみ。

何度も何度も同じフレーズを繰り返して、ただただひたすらに。

 

待っていた。

 

その亡骸に、別れの口付けを送る時を。