様は風紀委員長

名問題編

 

 

「いや」

愛読書片手に、奥様は一瞥すらくれずに一刀両断してくださいました。

「絶対に嫌だからね」

「嫌って言っても恭弥…」

「だって、六道 恭弥なんて絶対変じゃない。だから絶対嫌。君が変えてよ」

確かに雲雀の言うとおり、六道 恭弥という名前はなんともいい難いものがある。

字面はいいが、こう、いまいちしっくり来ないのだ。

しかし。

「雲雀 骸だって十分変ですよ…」

変どころではなく、間抜けだ。

骸は哀愁漂わせてぽつりと訴えるが、取り合っては貰えなかった。

「我慢して」

「いえ、ですからやっぱり六道恭弥の方がまだましですから…」

「やだって言ってるでしょ。僕はこの名前が気に言ってるの」

「恭弥」

頑として譲らず、顔すら上げない雲雀にほとほと困り果てた骸はなんとも情けない顔をしている。

顔は見えなくとも、漂う空気で、そういうのはなんとなくわかるものだ。

結婚してから、だんだんとこの男の乙女趣味もとい少女趣味いやいやロマンチストぶりには慣れて来たし、意外と尻にしかれるタイプの男だとは分ってきた。基本的に、甘いのだ。よっぽど気に障るとか、骸という存在そのものを拒絶しない限り、折れるのは大概あちらだ。

どうやらこの男、本気で雲雀に愛してもらいたいらしい。

だが、夫としてなら好き勝手出来ていいとは思うが、正直この男に負けた身としては無様な姿はあまり嬉しくは無い。

嘆息して、雲雀は本をパタリと閉じた。

調度面白い所に入ったのだが、これ以上片手間に相手をしたらますます惨めったらしくすがられる事は請け合いだからだ。

案の定、ようやく自分の方を向いてくれた奥様に、旦那様はぱっと顔を輝かせる。なんでこんな事くらいで一喜一憂するんだかと呆れながら、雲雀は譲歩してやる。

「まぁ、君がそんなに変えるの嫌なら、夫婦別姓でいいよ」

「な!?」

青天の霹靂。

骸はぱくぱくと間抜けに口を喘がせているが、雲雀は自身の提案が気に入ったのか、一人頷いている。

「別に今時珍しくないしね。いいじゃない。それで行こう、」

よ、までは言えなかった。

「ダメです!!結婚するのにそんな!!夫婦なんですからやっぱり同じ苗字じゃないと!!僕が変えます!!ええ!!今日から雲雀 骸で!!」

握り拳で大絶叫である。

骸の中で、夫婦というものは必ず同姓でなくてはならないらしい。

これもロマンチストの拘りか…

「あ、そう」

勢いに押されて相槌をうって、雲雀はバカらしさに閉じたページを開いた。

「そんな興味ないみたいな態度とらないで下さい!!」

半泣きで骸に抱きつかれて、本は雲雀の身体と男の身体の間にはさまってしまった。これでは読みようがない上、ごつごつと分厚いハードカバーが当たって痛い。

しかし骸は頓着せずにひたすらぎゅーぎゅーと抱き締めて来る。

絞め殺す気か、このバカは。

ふりほどきたいが、ますます厄介な事態になるため、雲雀はぐっと堪えた。(すでに経験済みである)

「実際ないし。まぁ、いいなら別にいいけどね」

ものすっごく変な名前だと思うけど、とは、胸に秘めておく。

しがみつく旦那さまに盛大な溜息をついて、奥様は家政婦さんが救出してくれるのを待った。

 

ちなみに、この決定を聞いた息子たちの反応はと言うと。

 

「語呂わる!」

 

と、声を揃えてくれました。

 

 

「え?じゃあ俺「雲雀 犬」になるんすか?あ、あんまし変らないれすね」

「「雲雀 千種」…うん、まとも…」

「やっぱり、君が一番変だね」

一斉に三人の視線を集めて、骸はだっと駆け出した。

「い、いいんです!!たとえ威厳なくても間抜けでもアホそうでも愛さえあれば〜!!」

 

「……だれもそこまで言ってないでしょ」

 

 

終わっとけ!