様は風紀委員長

顔合わせ編その

(あるいは新居事情編)

 

 

無事に顔合わせも済んだところで、薄汚れたテーブルを囲んでのお茶会となった。

巨体の男が黙々お茶を運んできて、カップを並べていく。

音も立てないやけに繊細な気配りが、ミスマッチだ。

ミスマッチといえば、こんな上等なティーカップと茶葉を出すような場所でもない。

雲雀は自分が口をつけた金彩の施されたカップをしげしげと眺める。

しかし、落ち着かないのは雲雀だけで、周りはといえば、その違和も気にとめず慣れたようすで寛ぎまくっていた。

ふと、嫌な予感が雲雀の頭を過ぎ去る。

「ねぇ」

「はい?」

騒ぐ犬に、自分の分のスポンジケーキを分けてやっていた骸が瞬時に雲雀に向き直った。

「まさか、新居がこんなところだなんて言わないよね」

お願い、違うと言って。

と雲雀の目が訴えているにもかかわらず、骸は無常にあっさりと頷いてくれた。

「そのまさかですが」

「しんじらんない…」

はっきりきっぱり肯定を返されて、雲雀にぐらりとした眩暈が襲ってくる。

「大丈夫ですか!?」

骸が慌てて傾いだ身体を抱きとめようとしたが、それは雲雀本人の手によて遮られた。

差し出した腕を拒絶されて、骸の腕は所在無さげに空中に浮かんでいる。

「信じられない…」

もう一度呟いて、雲雀はぐらぐらとする頭をほっそりとした手で抑えた。

頭だってそれこそ数え切れないくらい殴られたが、これはそんな事が原因じゃない…精神的な衝撃による物だ、絶対。

「信じられない…どういう神経してるの…君達…」

雲雀は、額に手をやってぶつぶつと呟きつづける。

「埃は積もってるし(埃じゃなくて砂です)ゴミは散らかってるし(ゴミじゃなくて瓦礫です)ソファーのスプリングは壊れてるし(それ以前に廃墟です)……僕、こんなところじゃ暮らしていけない!!」

最後は悲鳴のように声高に叫んで、雲雀はこの世の終わりだと言わんばかりに突っ伏した。しかも突っ伏したソファーはかび臭い(もうサイテー(涙))

こう見えても(充分見えます)雲雀はいい所の出だ。

こんな生活した事も聞いたことも想像したこともない。

トンファーより重いものを持ったことだってありません(人の身体(死体)だって持つものじゃなくて引き摺る物です。もしくは、部下に運ばせる物)。

「まぁまぁ。落ち着いてください、恭弥」

出した両手は突っぱねられたが、骸は気を取り直して殊更優しい甘ったるい声を出す。

そのまま肩にそっと手を置かれて、嘆く雲雀はゆっくりと顔を上げた。

そこには、真摯な顔をした旦那様の顔が。

「仕方ないんですよ今は。なにせ、潜伏中なもので。僕達は追われる身なんです」

ひしっとその手を取って、誠意をこめで旦那様は新妻に説明します。

「ですが、欲しい物があれば彼に買いに行かせます。もちろん、恭弥の部屋はきちんと掃除させますとも」

骸はさっきから給仕をしていた、今も千種の空になったカップに紅茶を注いでいる男を差した。

「欲しい物を書き出して、すぐにでも買いに行って貰いましょう。力持ちですから、ソファーくらい一人で楽々運べますよ(逆に目立ちます)」

むきむきまっちょな男は確かに骸のいうとおりソファーくらい一人で運べそうだ(あんな何十キロもあるような鉄球投げ飛ばして持ち歩くんだから、絶対可能です)

「だれそれ」

涙で滲んだ目を胡乱げに向ける雲雀に、骸は件の男を紹介してやる。

「家事担当の六道骸です」

「六道骸は君でしょ」

「影武者ですよ。本名は秘密です。でも、ややこしいでしょうから、ムックって呼んであげてくださいね。先輩でも構いませんけど」

その徒名もどうかと思うが、やはり雲雀は藪をつつくまいとすんなり受け入れた。

「わかった。じゃぁ、僕も一緒にいって、色々と見たいんだけど…」

「ダメです。申し訳ありませが、我慢してください。あまり目立つわけには行かないので」

遠慮がちに濁した言葉は、やはり一刀の元切り捨てられた。

自分が目立ったって、別に関係ないだろうとは思うが。

「…わかったよ」

そう言われるだろうと思っていたので、<雲雀は溜息をつくだけで反論は留める。

「わかってくれてよかったです」

にこりと笑う骸は満足げ。

意外と(?)亭主関白だ、この男。

あきらめてカップを持ち上げた雲雀は、揺れる水面に重要な事を思い出した。

「ああ、一番大事なこと忘れてた」

「なんです?」

骸はなんでも聞いてくださいともろ手を上げている。

それをじっとりと見詰める雲雀は、今度の答え次第では離婚も辞さない気構えだ。

「………シャワーは?」

「ドラム缶で」

「実家に帰らせていただきます」

その単語が出た途端、それ以上は聞くのも無駄だと、0コンマ一秒と開けずに話を遮って即答した雲雀は立ち上がった。

「嘘です!冗談です!ちゃんと施設の物を直して仕えるようにしてあります!!」

逃げる奥さんの上着をはしっと掴んで、旦那様は茶目っ気を出されたことを大層後悔したそうです。

 

訂正。

六道さん宅は意外と、カカァ天下であるようです。(奥さん愛してるからv)

 

 

次回「家政婦は見た。〜血みどろの浮気現場。「浮気しないって言ったのに!!」休息に近付く義母と息子〜」をご期待ください!(嘘です!!冗談です!!本気にしなでください!!)