様は風紀委員長

顔合わせ

その

 

 

「千種、犬。新しいお母さんですよ」

肩に手を置いた骸によって、同じ位の年の男子2人の前に突き出され、雲雀は無表情に沈黙した。

「……骸さま、男に見えます」

帽子を被った眼鏡君は、雲雀を上から下まで何度も見返して、至極まっとうな事を言った。

きらりと光を反射したガラスの奥から覗く目が、ちょっと気持ち悪い。

「っひゃー!!血、美味そう!!」

舌をだらしなく出した方は、雲雀が流す血の方に目が行っていて、ろくに観察もしていない。

あの、目が物騒だ。

食事を前にした大型犬のように、今にも飛び掛られそう。

思わず後ずさろうとしてしまった雲雀を、後ろにたつ骸ががしっと踏みとどまらせる。

やけに力が込められているのが、気になる。

「ほら、二人とも。ママが怯えていますよ。あんまり虐めないで下さい」

骸はにこやかに微笑んでいるが、それはまるっきり恫喝に聞こえるし、雲雀の自尊心を擽ってもいる。

思わず骸を睨みつけた雲雀は、肩に置かれた手を振り払って一人で立つと、息子二人を見据えた。

「は〜い」

「別に虐めては…」

おとなしく返事をする一方に、ぶつぶつと言い訳を零す一方。

 

一人は根暗で、一人はバカそうだ。

 

こんな奴らの母親になるのかと、雲雀は暗澹たる思いに駆られた。

年齢への突っ込みとかはしない。

なんだかしても無駄な気がするからだ。

「そうそう、いい子ですね。あ、ちなみに、右が犬で、左が千種です」

満足げに頷いた骸は、最後に雲雀に向かってつけたした。

根暗が千種、バカが犬。

と、インプットしておく。

しかし…本当にこんな子達とやっていけるのか。

雲雀はなんだかもう大分参ってきている。

これが育児疲れとか、育児ノイローゼとか言う物だろうか?

「ねぇ…この子達…」

「六道さんの奥さんですか?いやいや、可愛らしい方ですねぇ」

僕が面倒を見なきゃダメ?といいかけた所で、気色の悪い中年男が出てきた。

千種とか言う子供はなに考えてるかわから無くて不気味な感じだが、この中年男は生理的に気色が悪い。

ちょっと(どころじゃなく)許せない範囲かもしれない。

子供の頃、こんな手合いの変態に暗がりに連れ込まれた事が何度かある。(全部何かされる前に発見されて事無きをえたが)。雲雀が強くなろうと思ったのも、実は自己防衛のためが最初だ。

思わず武器を取り出そうとして、すかっと空を切った手に舌打ちする。

そういえば、トンファーは転がったままだ。

どうしてくれよう、と雲雀が苛々していると、先に千種が手を出した。

「うるさいバーズ。骸様の話の途中だ」

千種の手から飛び出したヨーヨーが、どごっと男の顎にクリティカルヒットする。

「ワオ!」

いい速さな狙いだと、雲雀は感嘆の声を上げる。男はといえば「ひぎゃ!」と、みっともない悲鳴を上げて意識を失った。

「犬、目障りだから食べたら?」

「え〜?こいつってばまずそうじゃん」

「悪食の癖に…」

そう言うか言わないうちに、、その小汚い身体にかじりついている犬に、「やっぱり悪食…」と千種は呟いた。

「んなことないね!!」

「あるよ…」

ぎゃーぎゃーと言い合うカワイイ(?)かもしれない二人に、雲雀はニッコリと笑って骸を振り返った。

「ねぇ、骸」

「はい、なんですか?」

「僕、ちょっと仲良くできる自信が出来たよ」

「そうですか?それはよかったです」

ぴくぴくと痙攣している部下を気に留めず、旦那様は麗しの奥様に笑い返して、しっかりとその体を抱き締めたのでした。