違うものである。

なれど同じものから生りた、まったき同一のものである。

別個であり、同種である。

在処を共にしたとても、

愛し恋しと思えども、

齟齬なく差違なく絡むとも、

異なる形の同胞でしかありえぬのである。

 

それ故にこそ、幸福である。

 

 

とけあいてかわらじ

 

 

足を組んで楽にしている雲雀の隣に腰を落ち着けた骸は、姿勢を崩していても背筋は伸びて凛と美しい姿を横目で眺め、裾から僅かに覗く真白い足裏に、瞬いた。

素足である。

先頃と同じ白でも、きちりとした足袋の白ではなく、膚の白。

雲雀は身嗜みに厳しいが、それは比較的公的な場面に限られ、気を緩める所は緩める人でもある。

己に課した責務を離れた私的な時間には畳の感触を直に感じたいと、リラックスする意味も含め、礼装でもある足袋を履かずに過ごすのが常だった。

そうは言っても、彼のテリトリーである所の秘密施設では部下の殆どが身内のようなもので、公的な場面など他組織からの通信が精々であり皆無に等しく、自堕落とまでは行かないが殆ど衣服を着崩している。

しかしいつも、というわけでもなく、時折思い出したように正装してなにかしらの案件に向き合う。

本日は丁度そんな気分だったらしく、朝は足袋を履いていた。

勤めを邪魔すると雲雀は酷く機嫌を損ねるので、骸は大人しく施設を徘徊したり凪達と歓談したりと時間を潰してから顔を出した。

折良く訪れることが出来たらしく、覆う繻子の無くなっている滑らかな踵と艶々と愛らしい爪の揃った爪先に、今日この後は完全に仕事から離れて寛ぐのだなと心得て骸の気分は浮き立った。

そこでさらりと気持ちいい藺草の感触を思い出しもして、骸もまた素足になるべくごそごそと身動く。

雲雀と過ごすようになった骸は日本家屋の過ごしやすさ、心地よさを知ってすっかりと親しんでしまっていた。

脱いだそれをたたんで形を整えてから己が障害となって視界に映らない場所へ置くと、ちらりとこちらを見て些か嫌そうにしたものの、雲雀からは特に咎める言葉はなかった。いい加減なんにでも目くじらを立てるのが面倒になったのか、今では一応の礼儀を守っていれば多少の不調法は目こぼしして貰える。

放り投げていたなら別だったのは無論のことだが、骸は共に過ごしてきた時間の積み重ねをこうした小さな出来事に認識するのだ。

「なに?」

いつまでも離れない視線にきちんと振り向いた眦の仄かな紅に惹かれ、ほんの少しこのままの手で触って良い物かと躊躇いながらも欲求には諍えず、指を伸ばし、丸みをなくした頬のラインを辿ってそっと包み込む。

肌に触れる少しばかり短くなった柔らかな黒髪。まぢと見据えてくる眼球の透明度の高い白と艶やかな漆黒との対比もまた鮮やかな人に、拒絶は伺えない。

それが、嬉しい。

「いえ。世が世なら、僕なんて拝顔も叶わなかったんだろうなと」

感慨深く応えながら、もし雲雀に出会えなかったら、自分はどうなっていたのだろうかと恐怖を覚える。

ひいやりと寒々しい夢想に強張った美しい異国風の相貌に雲雀はくだらないと嘆息して、骸と同じように皮が硬くて節くれだった、それでいて美しい手指でそっと赤い眼球に被さる瞼を優しく触れながら辿り、そのままやはり雲雀と同じで柔らかさを無くしてしまった頬を撫でた。

「君のことだから、今のように忍び込んできてるよ」

それに。

骸は笑み崩れ、慰撫する骨ばった掌に甘えて重みを寄せた。

「それも、そうですねぇ」

締まりのない弛みきった顔を添わせ、どちらからともなく唇をそっと重ね合わせる。

触れる温もりはじわりと染みて、揺れる睫が滲んでぼやけたのは、間近すぎる故ではなく。きっと、あまりにも幸福過ぎたからだった。

 

 

 

また別たれて、己が道を生くるものである。

行く道すがらの、瞬きに過ぎぬ邂逅である。

さりとて、とけあい別たれるたび、ほんの僅か互い互いが流入し、変質するのである。

 

成りは変わらぬ、傍目には分別がつかぬものどもである。

 

 

 

とけあいてかわらぬ、