ひとり砂浜で遊ぶ子供の姿を十数メートル離れた公園の入り口からしばらく眺めて、雲雀は黒革に包まれた爪先を進めた。

その最初の一歩に、多大な努力がいったなんて、誰が知っているだろう。

 

君は繰り返し大人になって

 

真正面にたった細身の影が、調度子供に落ちた。

「こんにちは」

その影を落とされた子供は、細かい砂粒を掻き集めて、小さな山を大きくしていく作業に熱心に取り組んでいる。

降ってきた声に、青みを帯びた黒髪が揺れて顔が上げられた。

随分と整った顔立ちの子供だった。この年齢ならば可愛い、と形容されるべきだろうが、この子供には綺麗と言う方が余程相応しい。

なんとなく、それがらしくて、青年は笑った。

「?」

優しい微笑みに、不思議そうに首を傾げる子供のあどけないその仕草に、青年はますます笑みを深めた。

もう向けられないあの眼差しが恋しいと、雲雀の胸はずくりと痛んだけれど、よかったと、素直にそう思えた。

「今度は、ちゃんと死ねたんだね」

「だれですか?」

「誰でもないよ。君が、気にする必要は無い」

もう、赤い瞳はその眼窩に嵌っていない。ただただ澄んだ青が、子供の両目を満たしている。綺麗な青。その青が、雲雀はたまらなく好きだった。でも、赤い瞳だって、嫌いじゃなかった。

「じゃあね。無事に生きてるか、様子を見に来ただけだから」

未だ自分を見上げる子供から離れて、ゆっくりと子供の傍から歩み去る。視線が折ってくるのを感じたが、子供自身が近づいてくる気配はなかった。

それでいいと、雲雀は想う。

触れる事は、もうしない。

もう、自分は必要ない。

人の枠組みから外れたこの身が、今はその輪に戻った彼に必要はない。

ふと、あと一歩で公園の敷地から離れるという所で、雲雀は振り返った。

子供の青い瞳が、まだ追って来ていた。その青と片方だけの漆黒を絡め、子供の姿を焼き付けるように、ただただ見つめる。

「骸さん!」

雲雀の立つのとは反対側の入口から掛けられた声に、子供の視線が外された。子供を迎えに来たのだろう、連れ立って歩く二人の変わらぬ姿が、懐かしい。

遠目にも少し年老いた、それでもいつまでも同じでいる彼らの姿に眦を細めて、雲雀はくるりと軽やかに背を向けて歩き出した。

 

君が、解放されてよかった。

 

 

呼ばれて、振り向いた骸は保護者二人の姿を認め相好を崩した。

立ち上がって駆け寄れば、骸と一緒に転げまわって遊んでくれる父の方が大きく腕を広げて抱き上げてくれた。

その腕の中に落ち着いた骸をみて、いつも物静かなもう一人の父親が驚いたように瞠目してそっと手を伸ばした。

「どうしたんすか?」

「え?」

「泣いてます」

子供特有の柔らかな頬を優しく拭う指先を、骸はぱちぱちと何度も瞬きして見下ろして、小首を傾げた。父の指は、確かに濡れている。

泣いている自覚などなかった。

ただ、どうしようもなく、瞼が熱い。

ぼろぼろと零れる涙を自分の小さな手で拭いながら、骸は優しく笑った青年がいた方に顔を向けた。けれど、赤い瞳と、黒い瞳は、もう幻のように見当たらない。

 

「おかしいですね。涙が、止まらない」

 

どうしようもなく胸が締め付けられて、声も上げずに泣き続ける骸を、二人の父はただ強く抱きしめてくれた。

 

 

君が安心して眠れるようになったならそれでいい。

今度は僕が眠れぬ夜を過ごす事になっても――

 

 

 

生まれ変わった骸

題名とタイトルバー(でいいんだっけ?)は創生のアクエリオンの主題歌から((笑)トーマさま大好きです!)

雲雀さんが骸の代わりに死ねない身になりました

千種と犬はそれを知っています

骸さまは次に再会したら泣きながらすがるといいよ

 

 

ねぇあなたは誰ですか

僕は知っているはずのに知っているはずなのに貴方を思い出せないんです

とても大切で大切で大切だったのに

 

ねぇ、教えてください。

 

あなたは誰ですか?

 

 

メモもいい所な話ですね…

明日にでも消えてるかもしれません(笑)