現に勝る苦界は無いと申します。

 

地獄廻り

 

男の足元に座りこんで、腕を男の膝に置いて頭をそこに凭れかけさせて、静かに時を過ごす。

まるで飼いならされたペットのように、そうしている事に慣れてしまった。髪を掬い取る手が、戯れに肩をなぞって、咽喉を擽るのもいつもの事と受け流せる。

だが今日の骸は珍しく雲雀に触れてくる事無く、ソファーの背に腕を置いて虚空を眺めている。

時折り、男はこんな風にどこか遠くを見る。

そこに、雲雀はいない。

それでも雲雀を離そうとはしない男に、退屈にくぁと小さく欠伸をして、雲雀は頭をもぞりと動かして骸の顔を見上げた。

今は六という漢字を浮かび上がらせる、右の瞳。

「地獄って、どんな所」

「なんですか?いきなり」

どうせ応えは返って来ないだろうと雲雀が骸のその身体に刻まれたという冥界の名を口にすれば、その声が届いたらしい男は、雲雀を見下ろして瞳を瞬かせた。

珍しい事もあるものだと、雲雀は笑う。こんな時、大抵雲雀の声は骸に届かないから。

「前言ってたでしょ。地獄を見てきたって…どんな所なわけ?」

なんとなく、興味はある。

そんな存在は信じたことは無いが、実際に男は地獄を廻ったと言っているし、持つその力も確かに現実離れしている。

だから、ひょっとしたら在るかもしれない。

存在するのなら、たぶんきっと行く事になるだろうその世界を、知りたいと思う。

獲物を弄る獣のような顔をして、雲雀は骸の顔を下から覗き込んだ。

「君が…君が気にすることじゃありませんよ」

こてんと自身の膝に頭を乗せて見上げてくる雲雀の髪に今日始めて触れて、男は哀しげに笑った。

そっと瞼を閉じてその低い温度を享受して、雲雀は無限に続く責め苦を想像してみた。

紅蓮華の華。

滴る怨嗟。

ただただひたすらに続く亡者の列。

雲雀には想像するしかないそれが、今もこの男を苛むのだろう。

 

それを哀れとは思わないけれど、

ほんの少し、切なかったから。

触れる男の手に、雲雀は小鳥が啄ばむように、小さく口付けてやった。

 

 

 

 

記念すべき40作品目がこんな物…orz

しかも君らどこにいるの…なんでこんなラブラブなの…

おかしいでしょ…

別人度限りなくMAXに近付きつつある今日この頃です…