君は踊る。 なによりも美しき貌を凍らせて。 虚ろな眼差しに劫火を秘めて。 マリオネット 「っ、ぅ…!」 うつ伏せに倒れていた雲雀は、髪を掴まれて顔だけを引き摺り上げられた。 あまりにも強い力に、髪が軋み、頭皮が引きつる。 苦痛に顔を歪めて、雲雀は端整な男の顔と、真っ向から向き合った。 相変わらず笑顔で無い笑顔を浮かべた男は、またあの含み笑いを咽喉から零している。 「クフフフフフ。雲雀くん、ご気分は?」 上体をそらされても、躰のやわらかな雲雀にとってそれは苦では無い。 ただし、怪我を負っていなければ、だ。 肋骨が折れているのだ。 こんな体制を取らせて、肺にでも刺さったらどうしてくれるというんだ。 「さい…あ、く……!!」 口の中がねとついて気持ちが悪い。 口腔内が彼方此方切れている。たぶん、後で口内炎になるだろう。 いやだな、柑橘類が沁みて食べられなくなる。 「おや?余所見をする余裕がおありですか?」 雲雀が意識をそらしたのがわかるのか、骸はさらに髪を握る力を強くする。キシキシと、軋んで、髪の毛が何本か抜けていくのが分る。 「やめ…てよ!!はげたらどうしてくれるの…!!」 頭を振りたい所だが、そんな事をすればますます髪は抜けるだろう。雲雀は態度ではなく口で抗議するしかない。 「ああ、それは失礼。確かに困りますよね、はげるのは」 可笑しげに笑って、骸は手に込めた力を抜いた。 大分緩やかな締め付けになり、雲雀はほっと息をもらす。 いくら耐えられるといって、痛いものは痛い。 「安心しましたか?じゃあ、貴方の言う事を聞いてあげたんですから、今度は僕の言う事を聞いてください」 そんな事を言って。 例え雲雀が頷かなくても、好き勝手するくせに。 毒づく雲雀に素知らぬ風に、膝をついていた骸が、持ち上げて間近に寄せた雲雀の顔に、ますます自身の顔を近づけてくる。 口付け寸前の位置でとまって、雲雀には骸の色違いの虹彩しか目に入らない。 笑う骸の目は、奥底に何かを潜めて隠している。 それに、ぞくりと雲雀の身体に鳥肌が立った。 「そう。そのまま…僕の目を見ていてくださいね?」 殊更優しく囁かれた。 吐息が雲雀の口唇をゆるゆると撫でていく。 瞬間、ぞわり、と。 骸の青と赤の影濃い部分。黒にさえ見えるそこに潜む闇が、蠢いた気がした。 「やめ……やだ!!やめろ!!」 わけも分らぬまま、雲雀は叫んでいた。 なにかに、侵される気がする。 雲雀がもっとも厭う、支配される感覚。 暗闇から延びる死人の手が、雲雀を捕えようと伸びてくる錯覚に襲われた。 「やめてよ…!!やだ!!」 惑乱し、雲雀は逃れようと頭をふって瞳を閉じる。 けれど、頭は固定されて動かず、瞼は命令を聞かずに、見開かれたままだ。 「怖がらなくても大丈夫ですよ。なにも変わることなんてありません…ほんの少し、自分の意識が無くなる時間が出来るだけで」 なにが大丈夫なものか。 自分が自分じゃなくなるなんて、それこそ死んだようなものだ。 「さぁ…抗わないで下さい。僕は君が好きですから、これ以上傷つけたくは無いんですよ」 「だれ…が!!」 死に物狂いで、雲雀は自身を押し込めようとする力に抗った。 なによりも、どんなことよりも最大の屈辱だった。 傷つけたくないなんて、雲雀は、いま一番傷ついている。 この男に犯された時も、負けた時ですら!! これほどの憎悪に、汚辱にまみれはしなかった…!! 「……許、さない…!!」 唸るように、雲雀は喘いだ。 絶対に絶対に、許したりしない。 どんな事をしても、 なにがあっても この男だけは、咬み殺してやる!! 咆哮する雲雀を見下ろし、骸はこの上なく愉快だった。 自身の手の下でもがく命を捉えるときの、この悦楽。 いつ命を奪われるとも知れない猛獣を相手にしているなら、その快楽はなおさらだ。 今はかなわないとしても、いつかは、本当に咽喉笛に喰らいつかれるかもしれない。 ああ、今から夢に見るほどに、それは魅力的な未来だ。 「楽しみにしていますよ」 心の底から嗤って、骸は光を失った雲雀から手を離した。 緩慢に落ちていく雲雀の身体は、目覚めれば彼の為だけに動く人形の目をしているだろう。 たぶん、それもそれで、きっと骸を満たしてくれる。 さあ。 踊って、僕のマリオネット。 その華奢な手足で、真白い肌で、光無き闇夜の髪と瞳で。 僕の敵を咬み殺し、その肌を鮮血に染めて、なによりも深い深い絶望を与えて――― び、みょ〜〜〜〜〜〜な。品が出来上がりました…まぁ、いいよね…所詮私だもん…うん …なにも言わないでください。 ただ、操られた雲雀が、骸の命じられたままに、助けにきたツナ達を殴り倒したりするシーンも萌えかも〜vvv とか思っちゃっただけです…はい さよなら…いっぺん首つってきます |