ひどい

 

呻いたのは、気の弱い少年だったという。

 

なんで、こんな

 

顔を腫れ、あらぬ方向に曲がった腕や足首。病的に白い素足を晒して、裂けた後腔からは血と精液とを溢れさせる。そして、その右の眼窩に、ぽっかりと空洞を晒した雲雀を見て、そう呻いたと。

それを訪れた赤ん坊から聞いて、雲雀は首を傾げた。

 

なにが酷いのか

 

あの男はヒバリに勝ったのだ。

たとえ其処にどんなに殺しきれない反発があったとしても、それは紛れもない事実。

雲雀に、何をしてもいい権利を持っている。

今まで、雲雀だってそうしてきた。

雲雀の前に倒れていった幾人もの人間を容赦なく咬み殺し、彼らの痛苦などには微塵も憐憫を覚えなかった。衝動のままに、酷い暴力をふるった。少年自身、その被害にあったことがあるだろうに、なにを言うのか。

それが今度は、雲雀の番になっただけのこと。

だから、

その点について、ヒバリはなにをされてもかまわないとは思う。

 

ただ、やはり感情は別なだけで。

 

天国の青

 

病室に置かれたベットの上、ヒバリはぼんやりとしていた。

白く塗りたくられた壁や天井。

窓の向こうに広がる青空だけが、鮮烈な色彩。

それらを眺めながら、雲雀は腕を上げてみる。

目の前に来た自身の手を見て、溜息をもらす。

まだ、片側だけの視界になれない。

遠近感が狂って、距離がつかめないのだ。

手がそこにある実際の距離と、今こうして見えている距離は、大分違うんだろう。

けれど、時期なれてみせる。

そうでなければ、生きていけないから。

あきらめてぱたりと腕を落とし、ギプスに固定さえれた足を視界に入れた。

ベットの上から動けない自分が、苛立たしい。

逃亡中だという男を今すぐにでも追いかけて、咬み殺してやりたいのに。

勿論その前に、自身の奪われた右目は取り返すのだ。

 

あの男は、ヒバリの右目を抉っていった。

 

にこやかに笑って、思い出の品にといって。

激痛にのたうち、意識を失う寸前に雲雀が見たのは、雲雀から抉った黒い虹彩を持つ眼球に、愛おしげ口付ける骸の姿だった。

 

そっとなにもはまっていない眼窩を押さえて、雲雀は奪われた右目を思う。

 

あの目は、今ごろあの時と同じように、あの男の愛撫を受けているのだろうか。

 

ぼんやりと空を眺めて、雲雀は自虐的な嘲笑う。

 

あの男と、同じ色の眼球をいれるのも、いいかもしれない

 

美しく澱んだ、ヘブンリー・ブルー