ああ

雪のように白く

黒檀のように黒く

この血のように赤い娘が欲しいわ

 

針で指を突いてしまったお妃様は、流れ出た血を見てそうおっしゃいました―――

 

白雪姫

 

「まるで君の事のようですね」

「なにが?」

「このお妃様の欲しがった子供ですよ」

骸が掲げて見せた本の表紙を見て、雲雀は鼻をならした。

「白雪姫?なんでこんなもの読んでるのさ。子供が見るものだよ」

隣に座る男から受け取って、パラパラとページをめくっていく。

グリム童話が何本か収められているが、少し前に話題になった大元の陰惨な話ではなく、子供向けのかわいらしいものだ。

所々にある挿絵も、ただ華やかに美しい。

「僕は子供の頃、こういうものは読みませんでしたからね。興味深いですよ」

雲雀の手元を覗き込んで、骸は淡い色彩で描かれた絵を珍しそうに眺める。

「原本の、残酷な方は暇つぶしにシェイクスピアなどと一緒に読んだのですが」

夢見る子供のための、やさしいやさしい虚構のお話。

耳にしたことはあれど、実際に見るのは初めてかもしれない。

そうやって、時々何気なく男が垣間見せる過去に、雲雀は眼を伏せる。

だが、なにも言わない。

骸が、別に何かを望んでいるわけではないから。

「そう。じゃぁ、君は王子さま?」

硝子の棺に納められた、白雪姫の亡骸に恋をした王子さま。

「おや?僕が王子さまだと認めてくれるんですか?」

「不本意ながらね。だいたい、死体に恋するような変態は君くらいしかいないよ」

「ひどいですね」

誰も触れられない棺の中、其処に閉じこもっていたお姫様を連れ出した、独善的な王子さま。

「それなら風紀委員の方々は、小人といった所ですかね?」

「小人と言うには、図体がよすぎるけどね」

雲雀の手から本を抜き取って覆い被さってくる骸の首に、雲雀は自分から腕をまわしてやる。

間近に迫った相手の、瞳に映る自分に満足して、くすくすと愉しげにどちらともなく笑い合う。

触れ合う吐息をさらに重なり合わせ、かわした口付けは甘く、あまく。

毒のように、互いの体を蝕んだ。

 

雪のように白く

黒檀のように黒く

血のように赤い

 

そんな君に、恋をした。