眠る仔猫

 

ひやりと冷たいなにかが触れた。

ぼやけていた意識が少し明瞭さを取り戻す。

途端に曖昧になっていた体中の痛みがぶりかえした。

無理な体勢を取らされていたせいで軋む関節や、太腿を伝う体液の不快さまでも感じながら、雲雀がけだるげい瞼を持ち上げれば、暫く姿を消していた男が戻って来ていた。

「気分はどうですか?」

雲雀の寝かせられたソファーに座って優しく頬を撫でる骸の声は、随分と弾んでいる。

なにか、男の気分を良くさせることがあったのだろう。

ひいては、雲雀にとって良くない事が。

しかし身構える気力すらも、残ってはいない。

直接的な暴力より、無理やり体内に押し入られた事による疲労感が強い。

内側から傷つけられる、ということが、こんなにも体力を消耗させる事だとは雲雀は知らなかった。

「ず…ぶん…」

からからに乾いた咽喉が張り付いて、うまく言葉が出てこない。

もどかしいのを必死になって動かしていると、骸が耳を寄せてきた。

「はい?」

それに、優しいことだと胸中で唾棄しながら、どうにか相手が聞き取れるだけの声を絞り出す。

「随分と…機嫌が……よさそう…だね」

折れた肋骨が、肺を動かすたびにずきずきと痛む。

本当は呼吸する事すら苦痛だ。

苦しげに息をつく雲雀の言葉を聞き取って、骸は破顔した。

「わかりますか?ええ、面白い事があったんですよ」

クスクスと笑い声が響く。

骸が、優しい手つきで髪を梳きはじめる。それを享受しながら、黙っていると彼は楽しげに語りだした。

「先ほどね、ボンゴレの10代目にあってきたんです」

ボンゴレ…何処かで聞き覚えのある名前に、雲雀は鈍い反応しか返さない脳内を捜索する。だが、見つけ出す前に、骸は次に話を進めてしまった。

「予想外すぎて、呆れを通り越して愉しくなってしまったんですよ」

10代目とやらを思い出したのかクフフフフフと、骸は忍び笑う。

「とてもね、弱くて小さかったんです。そう、君の方がずっと強いでしょう」

歌うように、子供を誉めるように言って、骸は雲雀の髪を梳いていた手で、今度は唇に触れた。

「なんなんでしょうね、彼は。とても不思議で、興味深いですよ」

考え事をする時の癖のように、幾度も幾度も雲雀の口唇を指の腹でなぞる。いい加減、切れた傷口に当たって痛い。

噛み付いてやろうかと思って、雲雀は唇を開くと、骸の指の先を咥えた。

だが、傷つけるほどの力は出せなくて、まるで愛撫するかのように、なにかを強請るように唇と唇の間に挟むだけで終わってしまった。

無駄な事をしてしまったと、吐き出そうと緩慢に咥えた男の指を舌で押すが、それは骸の指を暖かく包み込んだだけで何の効果も発揮しなかった。

雲雀の行動に骸はびっくりしたような顔をして、次いで、先ほど以上に機嫌よさ気に笑った。

「クフフフフ。なんですか?捨てられるかと思いました?大丈夫ですよ。君は気に入りましたからね。ずっと飼っていてあげます」

饒舌な男に、そんなんじゃないと言い返す気力が無い。

むしろ、今までの相手にしてきたように歯を抜いて、捨てて欲しいくらいなのに。

もう、疲れた。

この男には、話がまるで通じない。

気力が尽きた雲雀には、男の相手をしている事が苦痛だった。

意識が朦朧として、混濁してくる。

また、白い霧が雲雀を包もうとしている。

その雲雀の様子に気付いたのか、骸はじゃれかかった子猫にでもするかのように、そっと雲雀の赤い唇に挟まれた指を引き抜く。

「眠るんですか?…おやすみなさい。起きたら、また遊びましょう」

その遊びがなにを指しているのかなんて、嫌がおうにでもわかる。

 

ごめんだよと呟いたの記憶を最後に、雲雀は白い霧に包まれていった。

 

 

 

 

 

すみません。速攻で妄想してしまいました。

この期に及んでムクヒバ…馬鹿だ…

いいんです。私ムクヒバで生きて行くんですから。

そして投げやり雲雀。

ダメだよ雲雀ちゃん!そんなんしてたら、奴が調子に乗るから!!

もう充分にのってるか。

ってか、バイオレンスムクヒバは諦めました。

私は甘い世界で生きていきます。

嫌いな人がいらしたらすみません。