剣と盾より世界は生まれ、

 

お前と私で、世界は終わる。

 

 

白日夢

 

 

解けた金糸を、指が捕らえた。

ひゅっ、と。息を呑む摩擦音が聞こえる。

恐怖に、一瞬大きく空気を吸い込んだ。次いで、異形は声の限りに悲鳴を上げた。

 

「あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

それは、絶望を音にしたような、空虚な感情の奔流。

 

捕まった。

つかまって、しまった。

抗う間もなく、髪を強く握りこまれ、引き摺り倒される。

背に走る鈍い痛みを認識するより先に、頭上に拡がる木々に覆われた夜空が目に跳びこんできた。

呆然と、見上げる先に。

ゆるりと、影がその顔を現した。

 

己と同じ、造作。

顔の輪郭から、睫の一本すら同じに造られた、呪われた半身。

ただ、与えられた色彩と、役割のみが違うのだ。

 

慄き、絶望に顔を引きつらせる異形に反し、影は湛えた静謐を崩さなかった。

押し倒し、乗り上げた光に向かい、凪いだ目を注ぐ。

「お前は、泣くのだな」

見開かれた、血と銀の瞳から零れた涙を、酷く穏やかな仕草で影は拭った。

「私に、それは無い」

そう言って、指先を濡らした雫を舐め取り、静かに異形を拘束する。

「別たれた二つが出会い、一つに戻る」

まるで、感情が無いかのような影と、溢れんばかりの想いに、千々に乱れた異形。

 

嫌だ、と。

 

まるで頑是無い子供のように、悪鬼は涙を零しながら緩く首を振る。

 

「ユーバー」

 

哀れんだように、異形の名を呼び。影はそれでも、強く強く、捕らえた悪鬼の腕を地面に押し付け、離さない。

 

「お前は、どうしようもないほどヒトなのだ」

 

罪を宣告するかのように告げられた言葉に、ユーバーは、嘆きの全てを込めて、絶叫した。

 

 

「ユーバー」

 

 

呼ばれて、振り返れば見慣れた男が呆れたような目線を向けている。

「アル、ベルト」

男は、擦れた、耳障りな声に、小さく顔を顰めた。

「なにを呆けているんです。今から、貴方に一仕事してもらおうというのに」

常にない異形の姿。

急に投げ込まれた不確定要素に、全てを計算で動かす軍師は眉間を寄せる。

「別に…なにもない」

緩く首を振る悪鬼は、しかしやはりどこか違っている。

そう、妙に人間臭いのだ。

しかし、男は頭に浮かんだそれを、なにを馬鹿な、と否定した。この悪鬼が人間でないことなど、とうにわかりきっている。

そんなものは、錯覚に過ぎない。

「いけますね?」

溜め息をついて問い掛ければ、異形は心此処に在らずと言った様子で頷く。

その様に、不安を拭い切れない。

「ユー」

作戦を延期にしようと、男が名前を呼ぶ前に、悪鬼は姿を消した。

「ユーバー!!」

消える異形の名を、届かないと知っていて、男は苛立たしげに叫んだ。

 

 

血飛沫の舞う、命が最も輝く戦場。

あるとあらゆる感情が入り乱れる混沌とした世界。

異形が、最も愛するものだ。

 

それに被さる、静寂の世界。

影に、捕らえられ、絶叫する己。

 

 

それは、いつか必ず来る日の白昼夢。

 

 

 

 

 

以前日記に上げた文…

完成もしていないのに上げちゃいました…

や、更新しなきゃなと思って…

すみません・・・(汗)