ユーバーと少女

 

 

「あたしを殺すの?」

目の前で殺された母の体をみて、少女は黒衣の人とは思えない人の形をした者を見て言った。

「あたし、まだ死にたくないわ」

少女の先には、キレイな金色。

「俺の知ったことではないな」

無感情にせせら笑い、銀色のきらめきを弄ぶなにか。

「…そう」

哀しげ、というよりも諦念のような吐息をもらし、少女はまっすぐに大きな目でその己を殺すであろう人を見た。

「じゃあ、あたしを殺してもいいけど、あたしを食べてね」

がりがりに痩せた身体をまっすぐに立たせて、少女はその銀と赤の双眸を目に焼き付ける。

「肉だけじゃ無くて、骨までよ。血の一滴も残さずに食べてね」

轟然と向かうその姿は、どこまでも子供らしくなく、どこまでも子供だった。

「あたしはあなたの血肉になってあなたを侵してあなたとなって生き続けるわ」

 

それが、少女の最後の言葉。

 

転がる死体を見下ろして、異形は鼻で笑った。

「くだらん」

悪鬼の見下ろすそれは、腹部を裂かれ、桃色の内臓を晒している。

「ユーバー、なにをしている」

その場に佇む異形を呼ぶ、声。

「なんでもない」

そう投げ返し、ちらりと己の手が持つ固まりを見やる。

「あいにくだが、貴様はあまり美味そうではないからな」

少女の身体から引きずり出したそれを、少女の亡骸に向かって投げて捨てて、殺戮者たる彼は一顧だにせず歩き出した。

 

それでも私はあなたを侵してあなたとなって生き続けるのよ。

 

 

キレイなヒト。

 

 

 

小鳥がさえずるようにそう言って、少女は高らかに笑った。