母胎

 

異形の中に埋没する度、アルベルトはまるで羊水に包まれているかのように錯覚する。

身を焼く熱とは正反対な、快楽とはまた別の酩眤に似た穏やかな心地良さがひたひたとアルベルトの張り詰めた精神を和らげる。

平穏とは対極に位置する狂乱を招く異形がアルベルトに与えるのは、それでも正しく安らぎに他ならない。

アルベルトの下で媚体を晒し脳髄を蕩かす快楽を与えてなお、異形は飢えに枯渇するアルベルトにそれを埋める何かを与えてくれるのだ。

それは異形につつまれている今だけではなく、日常のふとした中にも潜んでいる。

向けられる視線、触れる指先、笑みを浮かべる口元、己が名を呼ぶ声音。異形自身気付かぬ何かが、アルベルトの餓えを満たすのだ。

異形のなにが自身の餓えを満たすのか、アルベルトは知らない。

知る必要もない。

ただ、与えられる欲を満たす肉体と、凍えた精神を抱く温もりを享受すればいい。

血肉をわけた者にすら感じた事のない安寧に、アルベルトはふと異形の名を呼んだ。

「ユーバー」

それに愉悦の波から一時引き戻されたのか、美しい異形はとろりとした色違いの瞳に、アルベルトを映した。