だから所詮、化物は化物らしくしているのが幸福だっていうことだ。

 

黒騎士と坊さま、

悪鬼について会話する。

 

多分それは愛だ。

それがその対象に向けるのは、愛だとマクドールは推測している。

二度目の邂逅時、相変わらずただ一人を見つめ求め彷徨い続けている暗い光。

密やかで冷たい静謐なる光。

廃墟や遺跡、人々に忘却された暗がりに差し込み、残酷なまでに過去の栄華の末路を浮かび上がらせる無慈悲で、もの哀しくよそよそしい光明。

それがペシュメルガの本質であるとマクドールは捕らえている。

彼はいつだとて傍観者で、この世界に彼を捕らえているものはなにもないのだ。

異端であること、部外者であることを厭わず哀しまず平然と受け止め、冷徹な眼差しで己を取り巻く世界を観察する彼は、正しく人ではないのだろう。

彼にあるのは、たった一つ。

同じ存在である、あの美しい悪鬼のみだ。

悪鬼を思い浮かべるときは、きまって哀れみがこの心に催される。

あれは人ではないのに、生物の営みから外れた存在であるのに、あまりにも自分達に近しい性質をもっている。

だからこそ嘆き悲しみ怒り激し笑い喜ぶ。

あの異形がなにを怖れ、ペシュメルガから逃げているのか、マクドールはなんとなく分かる気がするのだ。

多分それは終焉だ。

滅びであり、生命の消失を意味しているのだ。

それから、あの美貌の神は逃げ続けている。

世界の終わりを怖れ、孤独を畏れ、たとえ混われずとも他者と関わっていたくて、あの存在は逃げ続けているのだ。

やることには憎悪を押さえきれないが、どちらに親しみを感じるかと問われれば間違いなくマクドールはあの悪鬼を、ユーバーの方をあげる。

本能的な畏怖と拒絶はどちらに対しても抱くのだが、まだしもユーバーの方が親しみやすい。

しかし、それだけだ。

それと、受け入れることが出来るかというのはまた別問題だから。

ペシュメルガは、本当に、人外らしい人外であって、ああ、人間じゃないんだなと納得して距離をとってしまえば、どうとでも接することが可能だ。

しかし、変に人間的なだけにユーバーは人との差違がより際だち、言動を見ているだけで本能的に嫌悪と嘔吐がいや増して耐えられない。

難儀なことだ。

そう伝えると、ペシュメルガはどうしようもない馬鹿な我が子に対する母親のように諦念と愛情をもって口を開いた。

 

「だから、あれは愚かなのだ」

 

その束の間表層に浮き出た随分と人間的な情操に、込み上げる嘔吐を堪えるのにシンはとても苦労した。

そして今、こうして黒騎士が悪鬼に向ける感情を定義するに当たって熟考し、それを愛だと断定した途端、またも込み上げて来たものがあることだけ明記しておこう。