この疎外される わびしさよ 「なんだ、貴様か」 「なんだとはなんだよ」 そう返す間にもその視界からシーザーは外されたのだろう。ユーバーは爪染めを再会させていた。 思わずむかついて踵を返そうかとも思ったが、別に相手の部屋でもないただの居間をなぜ譲ってやるような真似をせねばならないのかと、シーザーはずかずかと足音荒く押し入ってその向かいに勢いよく腰掛けた。 やはりそれにも無視を決め込んだユーバーは長椅子に仰向けに横たわったまま、片腕を伸ばして器用に机の上に乗せられた小瓶の中の染色液に刷毛を浸しては、小さな瑕一つも白筋一つも見当たらない美しい光沢のある爪に色を乗せていく。 よく瓶を倒さないものだと感心ではなく、そんな所でも人間じゃないもののように感じて薄気味悪く思いながら観察していたシーザは、件のものをどこから手に入れたのかとふと疑問に思った。 シーザーでさえ知っている敷居の高い(高過ぎる)、ただ金を持っているだけでは買えないというプライドが高いわけじゃなく、鼻持ちならないだけの客を選ぶ事で有名な店の刻印がしっかりとそのガラス瓶には刻まれていた。 だが、やはり其処まで高慢なだけはあるらしく、その色は鮮やか過ぎるほどで、戦場の経験があるシーザにはそれは血にしか見えなかった。 だからこそユーバーがこうして本当の血の変わりにその爪を染めているのかもしれない。 ぼんやりと瓶からユーバーに視線を移すと、指先すべてを塗り終えたらしいユーバーが満足を覗かせて、手の角度を変えては赤く染まった爪を熱心に眺めている。 その横顔を見詰め、相変わらず綺麗な化物だと思った。 たぶん女が見たら嫉妬や羨望やらを通り越して足先に引っ掛かることも出来ない自分の顔に自身を無くす所か絶望して自殺するんじゃないかと言うのが子供の頃初めてユーバーと見えた時からのシーザーの見解だった。先だっての戦で、ユーバーとは別種の美貌と色気を持った紋章師に会って、世の中は広いものだと感慨深く思ったのは記憶にも新しいのだが。 「なぁ。何でお前はアルベルトと居るんだ」 祖父が屋敷へ招いた化物はいつの間にかアルベルトの傍に居て、ある日ふいと共に屋敷から出て行った。 なにがそんなにもユーバーをアルベルトに惹き付けるのか。 だが振り向く事も、声を発する事も無く、やはりユーバーは答えない。 あからさまな態度に、シーザーは溜息をつく。 アルベルトを追ってハルモニアに入ったシーザーは隠れているわけでもなかった相手をいとも容易くを発見し、アップルと分かれて己もまたハルモニアに腰を据えた。 だがその動向を間近で見張ろうと決意はしていてもまさかアルベルトの家に転がり込むつもりまではなったと誓って明言する。しかし、とある崇高な諸事情により一文無しになってあまつさえ裁判沙汰になろうとしていたところを当然シーザーの存在など認知していたアルベルトに拾われたのだから致し方ないではないか。 文句ならアルベルトに言えと此処しばらくのこのあてつけに耐え切れなくなったシーザがこぼそうとした時、宣告も無く扉が開けられた。 もちろん此処は彼の屋敷だし、彼が入室の是非を請わなければならないなんてことはない。 だが、仮にも他の住人がいるのだから、ノックくらいは礼儀だろうと、シーザーはじろりと己よりも暗い赤髪の男を睨みつけた。 「いたのか」 アルベルトはと言うと、まるで無感動にそう述べる。 いちゃ悪いのかよ シーザーが毒づく前にユーバーの喜色も顕わな声がアルベルトを呼んだ。 扉を開ける前から気付いていただろうユーバーは身軽く立ち上がってアルベルトに近寄り、一度その髪に触れると、染め上げた爪を目の前で見せびらかす。 アルベルトもまた顔筋を緩め、真っ白な耳朶に何事かを囁き、その手を取って口付けた。 そこで、ひょっとしたら爪染めはアルベルトが買え与えたものかもしれないと思い至った。 遺憾にも兄である男と正体の知れない化物である大の男二人が恋人のように触れ合うのに(いくら絵面的に問題ないどころか賛美ものだろうと)顔を顰め、シーザーは胸をちりちりと焼くものにますます気分を滅入らせた。 シーザーを一瞬でも見なかったその瞳が一心にアルベルトを見詰めている。 まるで特別だと言わんばかりに。 それがほんの少し、幼い日からシーザーには羨ましかったのだ。 ユーバーはアルベルトとアルベルト以外っていう区分をしていると言うお話 シーザーはシーザーじゃなくて、人間という区分 第三者から見た二人 恥ずかしい奴等だ 弟がいようとお構い無しの兄と兄嫁(は?) ちなみにマニキュアはユーバーがショーケースに飾られていたその赤色を気に行ってアルベルトに買ってと強請ったんです 別に兄がユーバーに似合うだろうなと想像して相好を崩して買い込んできたわけじゃないですよ? ちなみにユバには赤より黒のマニキュアのほうが似合うと思うんだ…でも、別に黒には反応しないと思うから…はぁ |