視界に、みどり、が閃いた。

それがひぃひぃと耳障りな悲鳴を上げて、逃げ惑う男の瞳の色だと理解して、異形は片方の剣を男の前に突き刺した。

「ひぃ!!」

無様に這い蹲って逃げていた男は、進行を遮るように顔の正面に付き立てられた凶器に、潰れた声を上げて、飛び退って腰を抜かした。

がたがたと震える、涙と脂汗とにまみれた男のその顔を、呆れ果てた顔で見下ろし、ユーバーは男の眼をじっと検分する。

恐怖に忙しなく動く瞳は、だが生来の美しい色を保ったままだ。

 

「翡翠の色だな」

 

ぽつりと呟き、悪鬼は己を見上げてくる瞳の色を称すと、無意識にその色に反応している自分に、ユーバーは失笑した。

異形には、最近気に入りの色が増えた。

以前は赤一つきりだったのだが、そこに緑と振り分けられる色彩が加わったのだ。

だが、どんな緑でも良い訳ではなかった。

 

とろりとした、なめらかな緑を見て、面白そうに金色の鬼は笑う。

 

「人はこれを美しいと言うのだろう。だが、生憎と俺はそんな命に満ちた色は気に喰わん」

 

萌える命の色。

どこまでも続く草原の、緑。

生命を抱く母なる色だ。

 

それはユーバーには必要ないものだ。

 

「俺には、あの凍りついた碧が相応しかろう?」

 

男の瞳の色を思い出して、ユーバーは笑い、その命を屠った。

 

 

 

 

 

「すんだか」

机に向かったまま、振り返りもしない男に、ユーバーは返事を返さなかった。

ただ、無理やり男の顔をその手で掴んで自分に向けただけで。

「ユーバー」

不快そうな男に頓着することなく、その瞳を覗き込んで、ゆっくりと、熱を孕んだ吐息をもらす。

「ああ…」

幾度も幾度も、白い指先が、目元をなぞっていく。

「なんだ?」

異形の悪戯に、不可解そうに軍師はされるがままになっている。

基本的に、軍師も異形も、互いの手を拒んだ事はない。

「やはり、その碧がいい」

確かめるように、角度を変えて覗き込んで、納得したように悪鬼の指先が離れていく。

 

「冷たい、色だ」

 

アルベルトの頬を撫でて、ユーバーはうっとりと、満足げに微笑んだ。